そして…出た。
 五竜岳の方から。

 

 食堂には何人かの宿泊客がいて、
 みんな、黙ってストーブにあたっている。

 「あー、今日も風が強いなぁ…」

 そんなことを言っているうちにも窓外は朝陽にどんどん染まっていく。

 

 「今日も晴れますね」

 部屋にはまだ電気が入っていない。
 起きたばかりの人たちのテンションもきわめて低い。

 「暑くなるなぁ…」

 

 「今日はどちらまで?」
 「大観峰の方に降りるんですわ」

 何気ない会話だけど、結構重要なこの会話。
 いざって時の貴重な情報源。

 さて、表ではそろそろ日の出の大演出は終わった頃合。

 部屋に電気が灯る。

  

 そして、朝食→出立。
 剱御前まできて、改めて剱岳を振り返る。
 ここから先はもうこの山は見ることは出来ない。