【し】

思案岳
[しあんだけ]/【南会津・尾瀬】

昔、この山の山頂に池があったと伝えられており、その池でこの山に住む姉妹の神が、どちらが先に蓮の花を咲かせられるか、と言う競争をした。ある朝早く、妹が起きてみると、姉の蓮が咲いている。負けん気の強い妹はその蓮を折ってしまった。これを後から起きてきた姉が見つけ、怒って妹を追い出してしまった。追い出された妹は、北に向かい飯豊山に住み着いた。と言う伝説が残っている。しかし、この話には諸説があって、その中の一つに、蓮の花を咲かせる競争は別の山で行われ、負けたほうが山を出て行くというものがある。この話の場合でも、姉の蓮が先に咲き、妹が折る、と言う筋だが、姉はそれに気付かず、負けたと思って山を去ったとなっているから先に紹介したものとは、反対の結末である。さて、山名の由来だが、妹に騙されて山を去った姉が、この山の山頂にやってきて、どこに住居を定めようか、思案したことに由来すると言う。その後、飯豊山に住居を定めたと言う点では、2つの話は共通している。ちなみに、千夜ノ岳[ちやのだけ]という別名もあり、この[ちやの]を測量官が誤って[しあん]と聞き取ってしまったと言う説もあり、『コンサイス日本山名辞典』ではこちらを山名由来として紹介している。


塩山
[しおのやま]/【関東山地】
塩を産出したことがあるから。塩山市の名前はこの山に由来する。

塩見岳
[しおみだけ]/【赤石山脈北部】
山頂から海が見えるから、山麓で塩が採れるからという説がある。塩川と言う登山口がある他、大塩、小塩、塩原と言う地名があることから、前者よりは後者の方が有力と見られている。また、両者をあわせたものとして、この地を訪れた弘法大師が塩不足に困ったこの辺の人々を見て、この山に登り、海が望めたのでその塩をここに呼んだと言う伝説がある。


本谷山より塩見岳(9月中旬)

七面山
[しちめんざん]/【身延山地】

頂上部にある大崩壊地なないたがれに由来すると言う。奈良県吉野郡にある七面山にも大岩壁があり、こちらは見る角度によって山容が変わって見えるので、その名になったと言う。身延の七面山にも同様の由来があるのだろう。


至仏山
[しぶつやま]/【南会津・尾瀬】
深田久弥の憶測によると、山麓を流れる渋沢を地元の人が、シブッツァワと呼んだものに、至仏と言う字を充てたものであろうとのこと。仏と言う字が山名の中にあり、宗教色を感じさせる名称だが、全く関係ない。小暮理太郎も同様のことを述べているので、深田久弥の憶測の域を出た、かなり信憑性の高い説といって良いだろう。



朝の至仏山(6月)



釈迦ヶ岳
[しゃかがたけ]/【富士山とその周辺】
嵯峨ヶ岳の別名がある。サガは険しいと言う意味の古語であり、尖峰であることから命名された。あくまでも憶測に過ぎないが、釈迦ヶ岳は単純にそれが転じたと解釈してもいいかもしれない。

杓子岳
[しゃくしだけ]/【飛騨山脈北部】
岩石でガレた岩場をシャクシと言う事から大きなガレ場がある山を杓子山、杓子岳という。


白馬鑓ヶ岳より杓子岳(8月上旬)

常念岳
[じょうねんだけ]/【飛騨山脈南部】
この山で猟をしていた猟師が、山の上から念仏が聞こえてきたので、神を畏れて逃げ出してしまった。その後再び、猟のためにこの山に入ったが、やはり、念仏が聞こえてきたので、「常に念仏の聞こえる山」と言うことで、常念岳になったと言う。近代登山開始以前は絶好の猟場としてしられた場所であったことを感じさせる伝説である。また、坂上田村麻呂がこの地方に勢力を張っていた八面大王を征伐した際、その重臣、常念坊がこの山に逃げ込んだので命名されたと言う説もある。


常念乗越より常念岳(8月下旬)

白馬岳
[しろうまだけ]/【飛騨山脈北部】
代掻きの時期にこの山にある雪渓が解けて、その解けた部分が馬に見えることから、「代掻き馬の山」→「代馬岳」→「白馬岳」と転じて、現在の名前になった。ハクバと読むのは、観光客の誤読を受け入れた村の名前であって、山の名前としては誤り。植物学者で、尾瀬を世間に広く知らしめた武田久吉博士は著書の中で[しろうま]を白馬と書くことにすら、嫌悪感を表わしている。


杓子岳より朝日に染まる白馬岳(8月上旬)

陣馬山
[じんばさん]/【関東山地】
東京都では陣場山、神奈川県では陣馬山の字を使う。一般的には陣馬山。後北条氏と武田氏が対陣したところであることから命名された。

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