富嶽の姿の存在感はその絶対的な均整美にある。
それに対して、飛騨、木曽、赤石の各山脈の美は、
荒ぶる大地の魁偉な中に、混沌と存在している。
飛騨山脈の中で著名な例を挙げるならば、
槍ヶ岳のツンと尖った穂先、
突兀とした剱の偉容、
穂高の峨峨たる連なり…、
と言ったところだろうか。
しかし、山好きならば、
どうしても笠の円錐、薬師の巨体、水晶・鷲羽の魁偉、
そして、鹿島槍の見事な双耳を抜きにして飛騨山脈を語ることはできまい。
今回登ったのは、その鹿島槍ヶ岳。
鹿島槍ヶ岳は古くは、後立山と呼ばれていた。
これは「うしろたてやま」と読むのではなく、「ごりゅうさん」と読む。
越中側より見て、立山の後に連なる後立山連峰の中で、
最も顕著で秀麗な山であることから命名されたのだろう。
確かに、平地から見ても、白馬〜鹿島槍の連なりの中で、
最も目に付くのは、この鹿島槍ヶ岳である。
そして、見る場所が高ければ高いほど近ければ近いほど、
その秀麗な双耳は、尊さを増す。
自分はそれまで、薬師から遠望したほかに、
写真でしかこの秀峰を目にしたことはなかったけれども、
如何にしても、この山に登ってみたいと言う気持ちを持っていた。
2004年7月。
この年の「日本アルプス初め」にこの山を選んだのは、
そうした憧れがあったからに他ならない。
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