7月30日―深夜。
 夜闇の中、扇沢バスターミナルの手前、
 柏原新道登山口付近の空き地に車を停める。

 幾許かの仮眠を取り、翌朝5時、
 いよいよ鹿島槍ヶ岳登山開始。
 厚い雲が、日光を遮り、景色を包む。

 景色が見えなくて、気温が上がらぬとあれば、
 一心に登る以外にすべきことはない。

 やがて、濃霧の中に種池山荘が見え、森林限界を抜ける。
 山荘の手前にはお花畑が広がっているが、
 今年は、咲くのも散るのも早かったのか、花盛りとはいえない。

 文字通り、五里霧中の登山道を今宵の幕営地、冷池へと急く。
 天気は悪いが雨には降られず、雷鳥も見れず。

 爺ヶ岳は南峰に攀じてみるものの、
 何の景色も得られないので、中央峰は翌日にまわす。

 冷乗越辺りで、うっすらと立山連峰の荒肌が見えてきた…。

 

 雲が薄れて、或いは、雲が切れて山が姿を表すときほど、
 厳かに人の心を打つ風景はない。

  

 そして、雲の切れたところに、冷池山荘の赤い屋根も姿を現した。
 断崖絶壁の上にあって、今にも落っこちそう…。
 この上の風に吹き飛ばされそうな、小さな平地が幕営地。